ふらふら、ふらふら

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インターネットにアクセスできず、取り残されるかもしれない人たちのこと

今、自宅で過ごすことが大々的に奨励されている。学校も休校になっている。その穴を埋めるべく、文部科学省はインターネットで子どもの学習に役立つコンテンツを配信している。文部科学省だけではない。自治体やさまざまな企業がインターネット上でコンテンツを配信している。インターネットを使って動画などのコンテンツを楽しんだり、WEB会議をするのが今や奨励されている。ところが、そのような流れから取り残されるかもしれない人たちが、100万人の単位でいるかもしれない。

厚生労働省が、2016年に「家庭の生活実態及び生活意識に関する調査」を行った。生活保護を利用している家庭と、そうでない家庭の生活状況を比較して、生活保護基準を決めるのに使おうという目的。政府統計の総合窓口(e-stat)に掲載されているから、興味がある方はご参照いただくとして。かなり重要なデータがここにはある。

この調査で、家庭にパソコンがあるかないかをアンケート調査した。上位20%の高所得者のうち家庭にパソコンがない世帯は6.8%。ところが、下位20%の低所得者のうち家庭にパソコンがない世帯は60.9%になる。さらにこれが生活保護を利用している世帯になると、79.5%の世帯がパソコンを持ってない。

もう少し細かく見よう。上位20%に入る高齢者世帯でパソコンを持ってない世帯は23.3%(それでも2割は持ってない)、下位20%に入る低所得世帯はこの数字が75.3%に跳ね上がる。生活保護を利用している高齢者世帯では91.6%。

比較的若い年齢層が入ると考えられる、母子世帯やその他の世帯についても見よう。

母子世帯では、上位20%に入る高所得世帯のすべてがパソコンを持っていた(ただし、サンプル数があまりにも少ないのでかなりの幅をもって見ないといけないのは注意)。下位20%に入る低所得世帯では46.8%の世帯にパソコンがない。生活保護を利用している世帯では、68.3%の世帯にパソコンがない。

同じく、その他の世帯についても見よう。上位20%の高所得世帯のうちパソコンがないのは5.8%、下位20%の低所得世帯のうちパソコンがないのは39.1%。生活保護を利用している世帯では、75.7%に跳ね上がる。

さすがにインターネットをまったく使ってない世帯の割合は、パソコンがない世帯の割合よりはもう少し低くなる。それでも、インターネットを利用していない世帯の割合は、世帯属性あるいは年齢によって大きく分かれる。生活保護を利用している高齢者世帯の83.7%がインターネットをまったく利用していないのに対し、上位20%に入る高所得の高齢者世帯のうちインターネットをまったく利用していないのは26.2%。比較的若い世代である、その他の世帯のデータ。生活保護を利用している世帯のうち51.4%はインターネットを利用していない。上位20%に入る高所得世帯ではこの数字が3%に。

低所得者ほど、また、高齢者ほど、インターネットにアクセスできない人たちの割合が増える。当たり前のようにインターネットを利用できているのは、比較的若く、また豊かな層と言える。物理的な距離を徹底的に置くことを奨励し、逆にインターネットによる交流を奨励する政策は、とりわけ高齢者や低所得者を確実に取り残す。

3月27日に、北海道大学の西浦博先生が次のように発信した。

https://twitter.com/nishiurah/status/1243453053308522497

これに応えて、別の方が、自分なりに「捨てなきゃいけない便利」「積極的に使っていく便利」を考えていた。

https://twitter.com/keikotosumiko/status/1243694890644418560

https://twitter.com/keikotosumiko/status/1243695377481486339

捨てなきゃいけない便利に「図書館で本を借りること」、積極的に使って行く便利に「テレビ電話」「ネット通販」「キャッシュレス」。図書館を捨てて、ネット通販で本を買うようにしよう。そのような流れになれば、本を買うお金もない、そもそもネットにアクセスもできない低所得者が確実に取り残される。それなりに豊か(知識的な面でも、経済的な面でも)だから、インターネットでネット通販を当たり前のように使い、Twitterを利用できているのは紛れもない事実。象徴的な言い方だけど、「図書館で本を借りず、ネット通販で本を買いましょう」「インターネットをもっと活用しましょう」という流れになれば、間違いなく低所得者や高齢者が取り残される。ネット通販も、低賃金で働いている人に支えられている。そういう人たちは、何もない家から出ることもできず、ひとり寂しく過ごすことになる。そういう人たちが、耐えかねて自死することまで考えてしまった。COVID-19を防いでも、同じだけ高齢者が自死してしまっては、何のための行動変容だったのか、本末転倒。冷酷に考えれば、COVID-19の感染拡大を防ぐことによって減らせる死者の数より、孤独に耐えかねて自死する低所得者・高齢者の数の方が少なければ、全体としてはまだマシではあるのだが。

ただ、SARS-CoV-2が突き付けているのは、「誰一人取り残さない」という課題だと考えている。やっぱり、このあたりのことはちゃんと考えないとダメだと思う。感染症対策も低所得者への施策も、同じ厚生労働省が所管しているのだから。

〇参考

COVID-19に対する厚生労働省の対応について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

自殺総合対策推進センター

https://jssc.ncnp.go.jp/