ふらふら、ふらふら

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司法へのアクセスのしやすさで紛争の顛末が変わる不公正

 裁判所で争えば、権利が認定されたかもしれない人が、裁判所に訴えるだけの経済力がないゆえに権利主張を諦める。その結果、その相手方にとって有利な結果をもたらす。なんだかアンフェアだ。

 かつて、司法制度改革審議会は、その意見書*1で、下の引用のようなことを書いた。かいつまんで言えば、すべての人が等しく、裁判所で法に基づいた解決を得られるようにしようとの趣旨。ところが、意見書が出てからもう20年が経つのに、相変わらず司法アクセスに高いハードルがある。それによって有利な結果をを得ている人もいる。悲しい。

 

1. 司法の役割
 法の支配の理念に基づき、すべての当事者を対等の地位に置き、公平な第三者が適正かつ透明な手続により公正な法的ルール・原理に基づいて判断を示す司法部門が、政治部門と並んで、「公共性の空間」を支える柱とならなければならない。
 司法は、具体的事件・争訟を契機に、法の正しい解釈・適用を通じて当該事件・争訟を適正に解決して、違法行為の是正や被害を受けた者の権利救済を行い、あるいは公正な手続の下で適正かつ迅速に刑罰権を実現して、ルール違反に対して的確に対処する役割を担い、これを通じて法の維持・形成を図ることが期待されている。したがって、司法機能は公共的価値の実現という側面を有しており、裁判所(司法部門)は、多数決原理を背景に政策をまとめ、最終的に法律という形で将来に向って規範を定立し執行することを通じて秩序形成を図ろうとする国会、内閣(政治部門)と並んで、「公共性の空間」を支える柱として位置付けられる。
 法の下ではいかなる者も平等・対等であるという法の支配の理念は、すべての国民を平等・対等の地位に置き、公平な第三者が適正な手続を経て公正かつ透明な法的ルール・原理に基づいて判断を示すという司法の在り方において最も顕著に現れていると言える。それは、ただ一人の声であっても、真摯に語られる正義の言葉には、真剣に耳が傾けられなければならず、そのことは、我々国民一人ひとりにとって、かけがえのない人生を懸命に生きる一個の人間としての尊厳と誇りに関わる問題であるという、憲法の最も基礎的原理である個人の尊重原理に直接つらなるものである。
 身体にたとえて、政治部門が心臓と動脈に当たるとすれば、司法部門は静脈に当たると言えよう。既に触れた政治改革、行政改革等の一連の改革は、いわば心臓と動脈の余分な附着物を取り除き、血液が勢いよく流れるよう、その機能の回復・強化を図ろうとするものである。この比喩によるならば、司法改革は、従前の静脈が過小でなかったかに根本的反省を加え、21世紀のあるべき「この国のかたち」として、その規模及び機能を拡大・強化し、身体の調和と強健化を図ろうとするものであると言えよう。
 憲法は、国会、内閣と並んで、裁判所を三権分立ないし抑制・均衡システムの一翼を担うにふさわしいものとすべく、民事事件、刑事事件についての裁判権のほか行政事件の裁判権をも司法権に含ませ、更に違憲立法審査権を裁判所に付与した(第81条)。裁判所は、これらの権限の行使を通じて、国民の権利・自由の保障を最終的に担保し、憲法を頂点とする法秩序を維持することを期待されたのである。裁判所がこの期待に応えてきたかについては、必ずしも十分なものではなかったという評価も少なくない。前記のように、静脈の規模及び機能の拡大・強化を図る必要があるという場合、その中に、立法・行政に対する司法のチェック機能の充実・強化の必要ということが含まれていることを強調しておかなければならない。
 行政に対する司法のチェック機能については、これを充実・強化し、国民の権利・自由をより実効的に保障する観点から、行政訴訟制度を見直す必要がある。このことは個別の行政過程への不当な政治的圧力を阻止し、厳正な法律執行を確保しつつ、内閣が戦略性、総合性、機動性をもって内外の諸課題に積極果敢に取り組むという行政府本来の機能を十分に発揮させるためにも重要である。
 違憲立法審査制度については、この制度が必ずしも十分に機能しないところがあったとすれば、種々の背景事情が考えられるが、違憲立法審査権行使の終審裁判所である最高裁判所が極めて多くの上告事件を抱え、例えばアメリカ連邦最高裁判所と違って、憲法問題に取り組む態勢をとりにくいという事情を指摘しえよう。上告事件数をどの程度絞り込めるか、大法廷と小法廷の関係を見直し、大法廷が主導権をとって憲法問題等重大事件に専念できる態勢がとれないか、等々が検討に値しよう。また、最高裁判所裁判官の選任等の在り方についても、工夫の余地があろう。
 いずれにせよ、21世紀の我が国社会にあっては、司法の役割の重要性が飛躍的に増大する。国民が、容易に自らの権利・利益を確保、実現できるよう、そして、事前規制の廃止・緩和等に伴って、弱い立場の人が不当な不利益を受けることのないよう、国民の間で起きる様々な紛争が公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決される仕組みが整備されなければならない。21世紀社会の司法は、紛争の解決を通じて、予測可能で透明性が高く公正なルールを設定し、ルール違反を的確にチェックするとともに、権利・自由を侵害された者に対し適切かつ迅速な救済をもたらすものでなければならない。このことは、我が国の社会の足腰を鍛え、グローバル化への対応力の強化にも通じよう。