ふらふら、ふらふら

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「自治」を忘れたひきこもり支援論

 久しぶりに見た「ひきポス」ウェブ記事。

www.hikipos.info

 「地域で支えるひきこもり」ってコンセプトに無理があると訴えるのはわかったが、そのあとの提案がいただけない。住んでいない自治体でひきこもり支援を受けたとしても、自治体間で経費を精算すればよいと、そんな提案だ。鉄道の相互直通運転と図書館の相互利用の例を出しているが、どれも的外れ。図書館の相互利用は、特に財源調整をしているわけではない。図書館利用者が増えたところで余計にかかる費用などせいぜい利用カード作成コストくらいのものだ。鉄道の相互直通運転での運賃精算の話も、各鉄道会社が設定した運賃で、各鉄道会社が設定したサービスレベルを提供するのは、相互直通運転があろうとなかろうと変わらない。ところが、この記事では、サービスが充実している住んでいない自治体の行政サービスを利用できるようにしようとの話だ。この場合、自治体相互間での精算単価はどのように設定するのか。現にサービスを提供した自治体での単価か。それとも利用したひとが住んでいる自治体での単価か。

 そして、この問題は、地方自治の根本にかかわる問題だ。各自治体は、住民の意思によって、どのような行政を展開するかを決定する。法律の枠はあれど。件の記事の筆者は政治家の欲の問題と書いてはいるが、その背後には住民の意思がある。住民の意思の裏付けがなければ、いくら政治家が欲をかいても次の選挙で落選する。設例の、「B町で行われているひきこもり支援ならば自分に合いそう」だというのならば、B町のひきこもり支援を住んでいる自治体でも行うように働きかけるのが、地方自治の本旨から考えた場合の「正解」である。自分の住んでいる自治体のひきこもり支援が不十分であるのは、結局のところ、住民であるあなたの側にも原因がある。わたしは、地方自治法の第10条第2項が好きだ。条文で次のように定めている。

 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。

 わたしは、通説とは異なるかもしれないが、ここでいう「負担」に、納税だけではなく、その自治体の意思決定に参画することも含めたい。住民は自治体の「お客様」ではない。より良いサービスを提供する自治体を市場で選ぶ存在ではない。住民は、自分たちが必要とすることを、自治体を結成して実現する、そのような存在だ。住民は、自治体の主体であると言ってもよい。「地方自治」とはそういうことだ。「地方自治」は、地域社会での問題を域内で解決する仕組みである。

 では、地域を超えた「自治」はないのか。答えは、ある。そのための組織として代表的なのがNPOだ。地域を超えて、課題ごとに、自主的にNPOを組織して、課題解決に当たる。そういう仕組みはすでにある。何も「地方自治」にその役割を担わせる必要はない。

 泣き所はNPOのどこもかしこも財源がないことであるが、この点に関しては、民主党政権の時に画期的な制度が導入された。3,000円以上の寄付を100人以上から集めたNPOへの寄付は、税金からある程度の割合を差し引くという制度だ。税金として国や自治体に納めるお金を、NPOに寄付することができる、極めて画期的な制度だ。「課題による共通性」を述べるのならば、行政の線引きにこだわる必要がない非営利・非政府組織の振興を図るほうがよっぽどよい。