ふらふら、ふらふら

あっちこっちふらふらしている人間が何かを書いてます。

あの日、温泉で大浴場に入れなかったわたしの親

 Facebookでは何年か前から書いているエピソードなんだけど、昨今の状況にかんがみてはてなブログでも書くことにした。

 わたしの親がそれほど余命はないと宣告されたあとのこと。最後の思い出作りに温泉に行った。その温泉はずいぶん昔に家族で行ったところで、久しぶりの旅行だった。その温泉には二泊したのだけど、わたしの親はついに大浴場に入らなかった。一泊目は夫婦そろって貸切風呂、二泊目は温泉が引かれているわけでもない部屋の風呂に入った。わたしたちには「こんなふらふらの状態で大浴場入るの心配でしょ」と言っていたが、のちにもう一方の親から聞いた話では、「大浴場で手術跡を見せたくないから」だったそうだ。ともかくも、せっかく温泉に行ったのに、貸切風呂を借り切ったたった一回しか温泉に入れなかった。

 たぶん、大浴場に入れないひとはほかにももっといる。たとえばトランスジェンダーのひとびとだとか。大浴場が大浴場である限り、この現実は変わらない。なぜか、「ペニスがついたトランス女性が女湯に入ってくる」なんてありもしない脅威を拡散しているが、実際にはペニスがついたトランス女性は大浴場なんかには「入れない」。プライバシー全開になるから。

 最後の温泉旅行に行ったあの日、たった一回しか温泉に入らなかったわたしの親が気軽に温泉を楽しめる温浴施設、それはプライバシーが保てる温浴施設であり、トランスジェンダーのひとたちが安心して利用できる温浴施設でもあるが、そういう施設をもっと増やす方向に行ってくれないだろうか。