ふらふら、ふらふら

あっちこっちふらふらしている人間が何かを書いてます。

吐きそうな現実のカリカチュア~「三十代になってもまだ未経験……〈就職童貞〉の恥ずかしさを告白します」

 内容がホモソーシャルなどとの批判の声もあるこの作品。わたしには現実のカリカチュアに見えた。

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 日本社会を生きる男性にとって、「就職」と「セックスパートナー」を得るのはほぼセットに近いものなのだ。そのあたりのことは自由民主党政策研究叢書「日本型福祉社会」(自由民主党広報委員会出版局)があからさまに書いている。就職して、収入を得て、その収入でセックスパートナーたる妻を養う。セックスパートナーたる妻を養うのは同時に支配をも意味する。セックスパートナーがいないことのコンプレックスを描いているかのように見せながら、結末で就職していないことのコンプレックスだったと告白するのはこの現実のカリカチュア。いわゆる「就職」そのものが、日本の男性にとってはホモソーシャルそのものなんだな。

 就職もセックスパートナーを得ることも、日本の男性はホモソーシャル的に動くこと、その醜悪さを露骨に描いた、いわば問題作である。醜悪さに対する言及が作中に足りないと見えるが、わたしにはそれも作者の計算のうちだと見えるのだ。醜悪な現実に対する批判の部分をあえて白地にして、読者が白地を補うのを期待したのではないか。そうすると、批判する読者が出てきて初めてこの作品は「完成」する。かなりうがった見方ではあるが。

 ところで、作者が、このような手の込んだことをなぜしたのか、そのことにも興味がある。誰かを挑発するつもりだったのだろう。誰かを。それが「誰」なのかは、想像はできるが。