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通信制高校は買われ過ぎた

 文部科学省が、「「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議」を立ち上げた。その第一回の議事録が文科省のサイトにアップされていた。

www.mext.go.jp

 目を引くのは、早稲田大学人間学術院教授の森田裕介さんの次の発言。

通信制高校には、やはり様々なバックグラウンド、背景を持った生徒さんがいらっしゃって、例えば自学自習を旨としながら、自学自習が難しい生徒さんが多い。結果的には、先ほど示した資料のように、通学をしていただいて手厚く支援をするということになっている、そういったところがありますので、ちょっとこれはデータをベースにしたわけではないんですが、むしろ全日制の高校のトップの生徒さんたちのほうが通信制のように自学自習ができて、逆に通信制に通っている生徒さんのほうは、もう対面で手厚く指導しなきゃいけないという、逆転現象が起こってしまっている。

 これは通信制高校の実態を知っている人なら全員周知のことのはずだが、それがようやく文部科学省の会議の場で公式に語られた。そのことは感慨深い。いま通信制高校に通っている生徒にとって、通信制高校は最適な場だったのか。自学自習ができないのになぜ通信制高校にやってくるのか。自学自習ができないなら、全日制や定時制のほうがいいはずなんだけど、なぜ通信制高校でなければならないのか。そこには、通信制高校を「受け皿」と位置付けてきた行政の失策はないのか。言いたいことは山ほどある。

 きらびやかな宣伝文句を並べ立てて、全日制や定時制から「排除」するために通信制高校が使われたと言ってもよい。ある種の「境界線」を引き、その境界線の中に「ふさわしくない」とされた生徒に対して「あなたは通信制に行ったほうがいい」と言い続けてきた。その生徒が自学自習できるかどうかは問われなかった。そのことによって、「境界線」を維持し続けてきた。*1であるから、通信制高校をの課題は、全日制や定時制の高校の課題だ。

参考文献

酒井朗「高校中退の減少と拡大する私立通信制高校の役割に関する研究: 日本における学校教育の市場化の一断面」『上智大学教育学論集』52号、2018年。

*1:AbemaTVで配信されている「#17.3 about a sex」の第8話で、妊娠した女子生徒が退学を強いられるのに対し、その女子生徒の友人たちが通信制高校の情報を探すことを「よいこと」として描いた。このような描写が自然に受け入れられることが、通信制を「境界線」の「内」に「ふさわしくない」とされた生徒の送り先になっていることの証左だ。現実に、妊娠した女子生徒に通信制への「転学」を強く勧め、そのことを「良いこと」とする者はかなりの数いる。